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時効(時効の援用)について(2)
今回は「時効の援用」について述べてみたいと思います。
前回説明しましたように、時効は、「時」の「効力」であり、一定の事実状態を尊重し、その事実に従った法律効果の変動を認めるものであり、それは、近代法の原則である私人間の法律関係は当事者の自由な意思に従って形成されなければならいとする「私的自治の原則」の例外あるいは補充と位置づけられるものでした。時効は、まさに事実状態を尊重するものですから、権利を持っていてもそれを長期間行使しないで放置していると、あたかもその権利がないかのような状態になっていることから、その権利が消滅するとしたり(消滅時効)、あるいは、自分のものとして物を占有している状態が長く続くと、その人が所有者であるかのような状態になっていることから、その物に対する所有権の取得が認められたりします(取得時効)。時効は、このように事実状態を尊重してそれに見合った法律効果の発生を認めるものですが、法は、このような法律関係の変動が確定的生じるための要件として、事実状態の継続に加え、当事者による「時効の援用」が必要であるとしています。
時効の援用とは、事実状態の継続によって不確定的ながら生じている権利関係の変動を確定的なものとする当事者の意思表示であり、時効利益を享受する意思表示といっても良いでしょう。このような意思表示がなされることによって時効による権利変動は確定的となり、消滅時効における権利の消滅、取得時効における権利の取得が確定的となります。時効が事実状態を尊重するといっても、やはり近代法の要請である個人意思の尊重の観点から、このような援用を要していると言えましょう。 このような時効の援用が未了の段階においては、まだ時効の効力は確定的ではありませんから、例えば、長期間にわたり返済をしていなかった借入金の債務者が、時効期間が経過した後において、時効の援用をすることなく、借入金の弁済をした場合は、有効な弁済となり、その弁済によって債務は消滅し、時効の援用はできなくなります。これに対し、その債務者が時効の援用をしていた場合には、債務は確定的に消滅していますから、その後の弁済は、債務がないのに支払ったことになり、不当利得返還請求等の問題となり、時効援用がない場合の処理とは異なった処理になってきます。
時効の援用は、事実状態の尊重と当事者意思の尊重とを調和させようとする法の配慮と言って良いかと思いますが、民法は明治期に制定された法典でありながら、しっかりとした個人意思の尊重を貫いており、その近代性にあらためて驚く次第です。