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遺産分割における生前贈与の取扱(期間的制限)

2023/07/19(水) 日々の出来事

 

弁護士 福間 則博

(設問)

死亡した人(被相続人)が生前に自己の財産を他に贈与していた場合、その贈与は遺産分割算定においてどのように扱われますか。

(説明)

1 相続財産(遺産)は、被相続人が死亡時点において有していた財産を意味しますから、被相続人が生前に自己の財産を他に贈与していた場合、その財産は死亡時点においては存在しないため、相続財産を構成しません。このような場合に、何らの調整もしなければ、生前贈与を受けた相続人は得をし、生前贈与を受けなかった相続人は不利益を受けることになります。そこで、このような事態を避けるために次のような調整がなされています。

2 遺産分割においては、相続人に対してなされた①遺贈、②婚姻若しくは養子縁組のための贈与、又は、③生計の資本としての贈与(以下、①②③を一括して「特別受益」といいます)については、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与の価額を相続財産とみなして具体的な相続分を算定します(民法903条1項)。これを特別受益の「持戻し」と言います。

3 これまで特別受益の主張をすることについての期間的な制限はなく、相続開始から何年経ってもなお特別受益の主張ができるとされていましたが、このような主張を無制限に許せば、いつでも特別受益の主張ができると考えて遺産分割請求がなされないまま放置され、遺産分割の手続が進まない恐れがありました。そこで、令和3年の民法改正により、相続開始時から10年を経過した後の遺産分割においては、特別受益や寄与分に関する定めは適用されないことになりました(民法904条の3本文)。これは、令和5年4月1日から施行されています。これにより特別受益の持戻しを主張するためには、原則として相続開始から10年以内にこれを行う必要があります。

4 ただ、これには次のような例外があります。

  • 相続開始から10年経過する前に家庭裁判所に対し遺産分割の請求をしたとき(同条1号)
  • 相続開始から10年の期間満了前6ヶ月以内の間に、遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由があって、その事由が消滅したときから6ヶ月を経過する前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき(同条2号)

5 なお、上記改正法は、令和5年4月1日から施行されており、同日以降の相続には当然に適用されますが、同日より前の相続については5年間の猶予期間が設けられ、相続開始から10年を経過する時、あるいは、猶予期間の満了日(令和10年3月31日)を経過する時のいずれか遅い時までに家庭裁判所に遺産分割の請求をする必要があります。

以上

 

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