「相続放棄(1年後に債務判明)」(ラジオ放送)

(質問)

 父が亡くなってから1年経ちますが、父には特に遺産がなかったことから、そのまま放置していたところ、今般、父に1000万円の借金があったことが判明しました。どうしたらよろしいでしょうか。

(回答)

1 お亡くなりになった方(以下「被相続人」といいます)の財産は、プラスの財産(不動産、預貯金、株式等)はもちろんマイナスの財産(借入金、預り金等)も相続人に承継されるのが原則です。しかしながら、相続人にマイナス財産が多く、相続をすることによってかえって不利益を受ける場合には、相続放棄をすることによって、財産を相続しないで済ますことができます。相続放棄をすることによって、相続放棄をした人は、初めから被相続人の相続人ではなかったこととなり、プラスの財産、マイナスの財産を問わず、一切の財産を相続しないこととなります。このような相続放棄は家庭裁判所に申述することによって行います。

2 ところで、相続放棄は、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内しなければなりません(民法915条1項)。この3か月間に相続放棄をすべきか否かを検討し、相続放棄をしない場合には、相続人は単純承認をしたものとみなされ、借金等の債務もすべて相続分に応じて承継されることになります。従って、本件のように相続開始を知って1年経過している場合には、原則として相続放棄ができないことになります。

3 しかしながら、上記3か月の間に被相続人の財産の全てを調査するのは困難な場合もあり、被相続人の債務に全く気がつかず、しかも気づかないことに何らの落ち度もないような場合もあります。このような場合にまで、相続放棄ができないとすれば、相続人に過酷な債務を負担させる事態となります。

近時の裁判例においては、「相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく、一方、消極財産(債務)について全く存在しないと信じ、かつそのように信ずることにつき相当な理由がある場合には、相続人が消極財産の全部又は一部を認識したとき又はこれを認識することができたときから3か月の期間を進行させるのが相当である」と判断しているものもあります(東京高裁平成19年8月10日判決)。

このような裁判例に従えば、本件においても、父の債務について全く存在しないと信じかつそのように信じるのがもっともだと言えるような事情が認められれば、相続放棄ができる余地があります。

4 相続放棄については、熟慮期間の3か月を経過した場合でも直ちに諦めずに、弁護士に相談されることをお勧めします。

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